「私、アスランのこと好きですわ」


そう言ったときの彼女の声を、笑顔を、忘れてなんていない―――








や わ ら か く 傷 つ け て








桃色の、長いのに決して重たく見えないそのふんわりとした髪を揺らして
彼女はいつものように微笑んでいる。
見慣れたその笑顔に、心の重りが少しずつ沈んでゆく。


「キラ」


親友の名を呼ぶその声は、とてもとても嬉しそうで、
親友との距離を縮める為の足はとても軽やかで、

俺を通り抜けて行く時の残り香は、まるでびりびりと破いて行くように、心を痛ませる。


「敵だというのなら、私を撃ちますか。ザフトのアスラン・ザラ」


その白い手を取ってしまいたいのに、
あの時の貴女が、今も鮮明に浮かんで
それが俺の衝動を鎮めてしまう。

あの時だっていつだって、貴女はなにひとつ間違えてなどいないのに
傷つくのはきっと、俺の心が弱いだけ――。


さようなら。


そんな一言を待っている訳じゃない。
だけど、婚約も解消しないまま、こんな関係でいいんだろうか。
もう「婚約者」だなんて名乗れないままなのに
「婚約者」同士として生活を送っていくなんて。

早く嫌いだって言ってくれたらいいのに



そうしたら、忘れてしまえるのに








「アスラン」

だけど貴女は笑顔で、俺の視界に映る。
だけど貴女は笑顔で、俺の名を呼ぶ。


なんて残酷な笑顔
なんて残酷な声


美しくて、凛々しくて、強くて、残酷な 女性ひと―――
























ほんとうは、



「婚約者」を消してしまいたい訳じゃない。
唯一貴女と俺を繋ぐ、絆だから。
暗くても弱くても、其処に確かに在る 真実もの


残酷でもいい

一番に好きでなくてもいい






どうか、俺の存在を、その真っ白な心の中に刻んでおいて




































(06/02/04)