上手くいってるよ。

これでいいじゃないか。


















こ の 距 離 が も ど か し い


















キラやラクス、アスランたちと一緒に過ごすようになって少しの時間が過ぎた。
キラはわたしの姉弟で、弱々しくて甘ったれだと思っていたけど
最近は強くてしっかり者になってきた。と思う。
それはたぶん、ラクスのおかげだろう。

キラとラクスは何時の間にか仲を深めていたみたいで、最近何かと一緒に居るところを目撃する。
ラクスはわたしとは違い、格好も何かも含めて正真正銘のお姫様。
一見護られるタイプのお姫様に見えるがその実、此処に居る誰よりも強い。
それは武力だとか、権力だとかではなくて、強いて言えば心。
その証拠にわたしはあの子が泣いているところを一度しか観たことがない。

キラの前。


父親が死んだのだと、あの子はキラの胸に顔を押し付けて泣いていた。
その痛みはよくよく分かるから、やっぱりわたしの胸に響いて―

けど、

アイツのあんな、表情なんか見てしまったら
なにもかも吹っ飛んだじゃないか馬鹿野郎。


「俺は馬鹿だから」


知ってるよ。そんなことぐらい。
なんで、そんなこといちいち…そんな表情で呟くんだ。


「…、なんか匂うぞお前?」

「分かるか?コレ。香水って言うんだぞ」

「どうしたんだよこんなもの」

「ラクスに貰ったんだ。」

「―――……」


なんでそんなにビックリしたような表情になるんだよ。
どうしてわたしから視線を逸らすんだ。
言葉に詰まるようなシーンじゃないだろう?












「アイツさあ、香水なんてお前に似合わないとか言うんだぞ?」

「まぁ、アスランったら」

「んっとに…。失礼なことしか言わないんだ。いつも。」


ラクスに愚痴を零す。
味気無い宇宙用の飲み物で喉を潤すと、
ラクスはゆったりと口を開く。


「アスランは、カガリさんのことを想っているのだと思いますわ」


ラクスの高く澄んだ声が、わたしを喜ばせる。
だけど反対に儚く消えてしまいそうなその表情が、わたしの喜びを妨げる。


「…、キラも。ラクスのことを想ってるよ。」

「まあ、嬉しいですわ」


言葉と表情がちぐはぐじゃないか。
嬉しい、っていうのは嬉しいから使うものだろう?


「けれど、キラには大切な方がいらっしゃいますわ」


なあ、淋しいとか思わないのか?
なんでそんなに穏やかな表情で居られるんだ?


さして嬉しそうでもないのに嬉しいって言ったり、
穏やかに、想ってる人の想い人のことを口にしたり、
辻褄の合ってないことばっかりじゃないか。












「ラクス」
「キラ」


ホラ、お互いの名前を愛しそうに呼び合って


「カガリ」
「アスラン」


わたしとアイツも同じように呼び合って、それでいいじゃないか。


どうして


「アスラン」
「ラクス」


どうしてそんなにも切なそうに、
声に出さずに呼ぶんだ、お互いの名前を。
何度も何度も何度も。

そんなの観てたら、ぜんぶぜんぶ分かってしまうじゃないか。


アスランのあの切なそうな表情の意味も、
ラクスのキラのことでのちぐはぐも、

なにもかも、分かってしまう










だけどまだ希みは、ある。
皆あんまり自分の意思を人間関係ってヤツに持ち込まないから。


「キラ、ラクスのこと大切にしてやれよ?」

「ラクス、キラのこと頼むな。アイツまだまだ甘えただから」


そうやって言っておけば、二人はうんって首を縦に振るしかしないと思うんだ。
それにキラもラクスもお互いのこと嫌いって訳じゃないんだから。
好きか嫌いかなんて、そんなの好きに決まってる。


「アスラン、」

「カガリ」


お前の、わたしを呼ぶ声も一緒。
わたしがお前を呼ぶのと同じ、だろう?


まだ、大丈夫だよ。


大丈夫。












いつまで「まだ」が続くだろう?




































(06/02/20)