君はいつも笑ってた...













         空  が 泣 く













かつて、
これほどまでにテレビに噛り付いていたことがあったろうか?
ディアッカやミゲルがくだらない番組について語ってたり
ニコルが恩師の演奏会が放映されるのだと喜んでいたり
そういうものに僅かたりとも興味が湧いたことはなかった。
娯楽番組の変わりにいつも流れていたのはプラント含む世界の情勢ばかり。
それで良かった。
それを観るのに対して嫌気は起きなかったし、観ることで安心もしていた。
他の奴らがくだらないことで時間を潰している間に、自分一人だけ勉強しているような
そんな気分になれたから。


だから、俺はそんな情報を知りたくなどなかった


『本日、プラント連合最高評議会議長シーゲル・クライン氏の愛娘ラクス・クライン嬢がご婚約なされました』


そんな情報を知る為に、テレビを見ていたわけじゃない


『お相手は最高評議会議長パトリック・ザラ氏のご子息である、アスラン・ザラ氏。二人は―』



こんなものの為なんかじゃ、


「………、ッ」



とりあえず落ち着こうと思って手を延ばしたカップの中では、彼女に貰ったハーブティが揺れていた。


















『はい、どちら様でしょうか』

「イザーク・ジュールだ。ラクスは居るか」

『イザーク様、いらっしゃいませ。少々お待ちください』



(早くしてくれ)
心の中でメイドの声に棘を持つと、
家の中で操作される扉が豪快な音を立てて開く。

一分、一秒が惜しいと言わんばかりに
イザークは急ぐ。
だけど此処で走るという行為はあまりにも似合わないと知っていたから
精一杯の徒歩で、急いだ。


「いらっしゃいませ、お嬢様はいまテラスの方に…」

「車を止めておいてくれ」


さっきのように機械音の掛かっていないメイドの声には反応もせず
適当に止めて来た車の鍵を押し付けるように渡した。
メイドが何か言ってたようだけれど、一切を無視して
いつものテラスへと歩みを進める。




「ラクス!」




ウィーン、と自動ドアが開くのもまどろっこしいと
身体を押し付けるように入れば、曇った空の鈍い光を全身に浴びた。


「…まぁ、イザーク。どうしたんですの?」


彼女は可笑しいぐらいいつもと変わらず
テラスでゆったりとお茶の時間を過ごしていた。
言葉は驚いていたがまだまだ余裕の有り余る表情に、
自分の焦りようが情けなく思えたけれど、そんなことはどうだっていい。


「ラクス、あれはどういうことだ…?」

「あれ?あれとはなんでしょう?」

「分かっているんだろう?アスランと」

「ああ、婚約のお話ですか?」


まぁお座りになってくださいな、と
誘導するラクスを無視してイザークは尚も吼える。


「どうして急に…っ!それもなぜ」


なぜあのアスラン・ザラなんだ、
ラクスの鼓膜を震えさせようと口にした言葉を遮るような場違いな機会音。


『ハロッ』

「あらあらいけませんよハロちゃん」


ラクスは両手でやわらかく捕まえて、
自動ドアの向こうへと逃がしてやる。


(…あんなものあったか?)


邪魔されたというのにイザークは意外と冷静で、
ラクスのその行為を背中から見つめて頭の片隅で考えた。


「ごめんなさい、ハロちゃんったらお客様に喜んでいるのですわ」




なんで、
そうやって微笑っている?



婚約のことを俺に言わなかったことよりも
婚約の相手があのアスラン・ザラであることよりも



「なぜいつもそうやって笑っている…?」



そんなことよりも一番気に引っかかる


ピクリ、とラクスの身体が動く。
苦い思い出を引き出すキーワードを発したときみたいに。



「…ちょうど蒸しておいたお茶が美味しくなる頃ですわ。一緒に飲みませんか?」



この状況で一緒にお茶を飲もう、なんて

本気で言っているのか?





「遠慮する、」










振り向いたラクスは、









この世でいちばんうつくしく、

             儚く微笑った―――




















    君 が  微 笑 



































(06/03/04)