「私たちは、どうして出会えたのでしょうね?」




最近、彼女の口からよく零れるようになった――――








微  笑  ん  で  い  て  下  さ  い







「婚約者だから、ではないですか」


表情を少しも変えずに、出された紅茶に口をつける。
テラスには暖かな光が差し込んで心地良い風が吹く。

――此処は、特に管理が行き渡っているなと、思う


「そう、ですわね」


ラクスは静かに微笑んで空色の眸を閉じて、
アスランと同じように紅茶へと手を伸ばす。



分からなかった、

彼女のその、言葉の意図が





出会えたのは、婚約者だから



それ以外の何が、あるというのだろう






















彼女は、正真正銘のお嬢様で
何処か世間ずれしていて


よく、分からない人だった



「私…キラ様のこと、好きですわ」



その”好き”はどういう”好き”なのか、
普通だったら嫉妬するのかもしれないけど、
分からなかったから――


「…、はぁ」


多少ビックリはしたけれど、
彼女がニッコリと微笑むから

特に不安がることも、無かったんだ



「辛そうなお顔ばかりですのね、この頃の貴方は」



心配そうに曇った空色の瞳を、
どうして分かってあげられなかったのだろう、と

今でも、よく思う


どんなに、自分が情けなくて
余裕の無い人間だったのかと、―――




「では、私たちの子供は、紫の髪になるんでしょうか」



分からない、ことが多い女性だった。
ビックリさせられることも多々あって――


でも、


ハロに対して、ものすごい愛情を注いでくれて
自分たちの未来に、少しだったかもしれないけど、明るい望みを持っていて


何より、


貴女が微笑んでいる間は、大丈夫なんだなんて、

思い込んでた


貴女の微笑みは、


とてもとても


大きいものだと、信じてた――――




















「私たちは、どうして出会えたのでしょうね?」



最後に、その言葉を聞いたときの
彼女の表情は、今でも鮮明に脳裏に焼き付いてる。

抜けるような碧い空ではなくて、
曇りきった雨模様の空



「…、婚約者だからでは、ないのですか」



同じように答えると、
雨は更に激しさを増して
それを覆い隠すように
微笑むラクスは
誰が見ても明らかに無理をしていて



「ずっと、思っていたのですが」


「は、い…?」



「では、どうして私たちは婚約者になれたのでしょう…?」



どうして、

彼女の願う応えを、


あげることが出来なかったんだろう――




「対の、遺伝子を持っていたから、ではないのですか」




最後の、

彼女の頷きを、



「そう、…ですわね―」



どうして




忘れることが出来ただろう




















「アースラン。こんなトコに居たのかよ」



聴き慣れた声が、アスランの耳に届く。
先ほどまで輝いていた太陽は、
気がつけばとっぷりと暮れ顔を隠していた。
変わりに蒼暗い空が一面を覆っていて、
点々と星が小さな輝きを放っている。


「ああ。…もう終わったのか、溜まってただろう書類。」

「まぁな。流石に一日中閉じ込められてたんじゃ、やるしかないだろう?」


あー疲れた、と肩を廻し、腕を揉んで俺の隣に並ぶ。
俺は少しだけ笑ってまた、空に眼をやった。


「キレイだな、」

「ん?」

「今日の月。ホラ、ちゃんと三日月になってる」


本当だ、
ずっと気がつかなかったけれど、
月が本で見た通りの三日月形になっている。


「―――ラクス、…」


彼女の名前を、ポツリと呟いてみる。
いつか、誰かが言っていた。
彼女は、月のようだと。
いつも静かに照らしている、月。


「今―なんか、言ったか?」

「…、いや」


別に、とカガリをかわして
静かに浮かぶ月に、小さく小さく祈りを込める



どうか


どうかどうか




ずっと、











あ な た が わ ら っ て い ら れ ま す よ う に





































(06/01/29)